アナリストに対して酷な見方に過ぎるような気もする。
アナリストは、全ての上場企業について定期的にレポートを書く義務を負っているわけではない。
継続的にフォローしている会社の中から、特に自分の関心を惹く銘柄を取り上げてレポートを書くのがふつうだ。
いきおい割安銘柄を探し出して投資家に買いを奨め、儲けてもらって感謝されようという気持ちがレポート執筆の動機となる。
当局からすれば、割高銘柄も同じ熱意で探し出せということなのだろう。
正論といえば正論だが、そう簡単に割り切れるものだろうか。
アナリストによる不祥事の再発を防止するために、当局側が求めた対応策は主に二つある。
企業が特定のアナリストを特別扱いすることの排除と証券会社内におけるアナリストの独立性確保である。
アナリストと企業の関係は微妙である。
取材される側の企業からすれば、自社を高く評価してくれないアナリストに対して、懇切丁寧な対応をする気にはなりにくい。
逆に、自社への投資を呼び込んでくれるアナリストには、何かと相談を持ちかけるようになり、他に出さない情報を漏らすこともあり得るというのが人情だろう。
アナリストが個人的な能力や実績で企業側の信頼を勝ち得た結果、他のアナリストでは得られないような情報を入手するのならまだしも、中には、企業から特別扱いを受けようとして偏った投資情報を流す者も出てくる。
SECのアーサー・レビット委員長(当時)は、一九九九年四月に行った講演で、王子が魔法で蛙の姿に変えられてしまうというグリムの童話を引き合いに出し、「アナリストの中には、もともと蛙でしかないものを王子様だと言い張る者がいる」と指摘した。
かつてわが国では、「米国では企業自らが業績予想を発表することはなく、アナリストが独自の分析に基づいて見通しを作成している」との説が流布された。
わが国のように企業が自ら業績予想を発表していると、企業側の予想数値にアナリストが依存してしまって能力が向上しないので、企業による業績予想発表を廃止すべきだとの意見すら聞かれた。
しかし、実は、米国の企業が業績予想を発表しなかったのは、見通しが外れた場合に訴訟の対象となることを懸念したためだった。
実際には、企業が予想を作成しておき、密室でのアナリストとのやり取りを通じてアナリスト側が作成した予想の原案を修正させ、妥当と考える水準へ誘導するといったことが日常的に行われていたのである。
こうした慣行は、単に不透明であるばかりでなく、業績予想を的中させようとするアナリストが、企業側の本音を引き出そうとして担当者の意を迎えるためにすり寄っていくということにもつながりかねない。
そこで、SECは二○○○年一○月、公平情報開示規則(しギュレーションFD)を施行した。
こ規則は、株価に影響を及ぼす重要な未公開情報を一部のアナリストや機関投資家のファンド・マネジャーだけに優先的に開示することを禁止した。
上場企業は、個人投資家を含む全ての投資家を公平に取り扱う「フェア・ディスクロージャー」を確立しなければならないというのである。
二○○二年一一月には、この規則違反に問われた企業に対する初めての処分事例も現れた。
指弾されたのは、上場企業のCFOがアナリストの作成した予想値を個別に働きかけて修正しようとしたなどといった、以前であれば日常茶飯事だった行いである。
SECの厳しい対応を目の当たりにした企業は、アナリストを特別扱いしないという姿勢を今後、一層強めていくだろう。
もっとも、企業が情報開示という局面でアナリストを特別扱いしないというだけでは問題は解決しない。
社内に大勢の有力アナリストを抱える大手証券会社は、株式や債券の発行引受、企業の提携、買収などのアドバイスといった、いわゆる投資銀行業務を手広く行っている。
こうした分野でアドバイザーなどの地位を獲得するためには、顧客である上場企業との友好関係を常に維持しておくことが不可欠である。
そこで、投資銀行部門が、自社のアナリスト・レポートの内容に目を光らせ、企業にとってマイナスとなる情報を見つけると、関係の悪化につながるとして削除を求めることすら起こりうる。
Mのエンロン担当アナリストが退職に追い込まれたという疑惑も、そうした文脈のアナリストの報酬体系も問題視された。
投資銀行ビジネスでは、成功報酬型の手数料が珍しくない。
二○○一年六月に採択された証券業者協会(SIA)のガイドラインや二○○二年七月に施行されたニューヨーク証券取引所(NYSE)及び全米証券業協会(NASD)の規則では、そうした事態を防ぐために、投資銀行部門がアナリストのレポート原稿を事前にチェックしたり、投資判断を承認したりすることが禁止された。
また、レポートを執筆したアナリストの所属証券会社が、レポートの対象企業に対して投資銀行業務上のサービスを提供している場合には、その事実を開示することも義務付けられる。
微々たる報酬しか支払っていないわが国においてすら、一部のスター・アナリストの年俸は数千万円から一億円にも達すると言われるほど、アナリストの報酬は上昇していた。
この背景には、とりわけ米国の場合、投資銀行業務への係わりと、それに伴う成功報酬型手数料の分配があったとされる。
このため、SIAやNYSE、NASDは、アナリストの報酬を投資銀行業務の特定の案件に連動させることを禁止し、投資銀行部門全体の業績と連動させる場合にもその事実を開示するよう義務づけた。
それにしても、本来中立的であるべきアナリストは、なぜ投資家の信頼を裏切ってしまったのだろうか。
米国では、証券アナリストの役割は早くから市場関係者の間で認知されてきた。
一九七二年に金融専門誌『インスティテューショナル・インベスター』が開始したアナリスト・ランキングは、機関投資家のファンド・マネジャーが、アナリストの分析能力や投資判断の的確性を評価するものである。
中立的な立場から企業と産業を分析し、機関投資家の投資判断に役立つ情報を提供したアナリストが高くランクされ、所属証券会社の社内でも優遇されるという仕組みが確立されていった。
ところが、一九七五年の手数料完全自由化以後、とりわけ電子取引の広がった一九八○年代後半以降、生命保険会社や投資顧問会社など機関投資家が支払う株式売買委託手数料の料率は、急速に低下した。
また、年金基金など運用委託者は、委託先投資顧問会社の運用パフォーマンスを詳しく分析し、支払手数料をはじめとするコストを切り下げるよう圧力を強めた。
こうして機関投資家ビジネスの収益性は低下し、証券会社は新たな収益源としての投資銀行業務の強化を急いだ。
その際、一つの切り札となったのが、業界事情に精通したベテラン・アナリストにM&A案件に関する助言をさせるといった、アナリストの関与である。
投資銀行業務は、相対的に手数料水準が高く、しかも、成功報酬型の設定となっていることも多い。
機関投資家からの手数料だけに依存していたのでは年俸の上昇が見込めないアナリスト達も、収入増を狙って投資銀行業務での実績作りに走った。
更に、近年では、機関投資家取引の執行方法が多様化、複雑化し、証券会社のトレーディング能力が重視されるようになってきた。
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